「例えばキスをする時に相手のくちびるに触れるでしょう」
「私たちそれと同じじゃあないのかしら」
「可笑しいわ」
「可笑しいわね」
ひとりが笑えばひとりがまた同じように肩を震わせて笑う。嘲笑。彼女たちの世界に広がる常識から私は著しく逸脱している。
 「幼い子供と街を歩く時にその手を握るでしょう」
 「私たちそれとは違うのかしら」
 「不思議だわ」
 「不思議よね」
 尖った犬歯を晒して彼女たちは歌うように笑い踊るように回る。繋いだ右手と左手を一杯に広げて踊る。今すぐ引き離してしまいたくなる。眩暈。指先が汗で湿る。
 「愛しい人とはいつだって一緒にいたいでしょう」
 「私たちそう思ってはいけないのかしら」
 「愛しているわ」
 「愛しているもの」
 見詰め合う瞳は4つ。交わる唇は2つ。向き合う体は2つ。腕は、3本。組み合わせた指先が剥がれることはない。触れ合った部分に皮膚は無い。身体の共有。彼女たちの腕の片方はぴったりと繋がっていた。同じ型の血液はそこで交差する。
 「ね、先生すてきでしょう」
 「私の腕はこの子と繋がるためにあったんだわ」
 「私たちずっと一緒なの」
 「死ぬまで、死んでも、一緒なの」
 「しあわせだわ」
 「しあわせね」
 ガラスの一枚向こうで幸せそうにそれらは微笑む。私はその場で胃液を吐き出してしまった。境目から壊死した細胞は混じり合い全身を廻る。
ワンピースだけが異様に白い死体のような生物の足から黄ばんだ骨が見えた。今にも崩れ落ちそうなそれの皮膚は私の手の隙間から床に零れた吐瀉物と似た色をしていた。
 (せんせい、わたしたちこのまましんでいきたいわ)


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